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 <生者が死者の遺志に思いを馳せている限り、歴史は歪まない>

最初に読んだのはいつのことだったでしょうか?かれこれ、12年前くらいでしょうか。

河時根は第2次大戦中、朝鮮から強制連行され、九州の炭鉱に送られ、過酷な労働を強いられます。それは、想像に絶する非人間的なものだった。暴力と辱めを受けながら、食料もまともに与えられず、賃金もピンはねされる。そして、逃げれば監視の目とすさまじい暴力。働けば炭鉱事故の恐怖。こんな状態で彼らは、祖国に帰ることだけが希望として働いています。
暴力、事故で次々と倒れていく仲間たち。そして、生き延びるのは同じ民族が管理者として、仲間を見張ること。

それでも連行された者は、改善を求めて、炭鉱に行かないストライキを決行します。そこで主人公が唄う、ただひとつの歌が‥。ここで泣いてしまうんです。
次から次に苦難が襲います。しかし、これは事実、日本が行ってきたことなんです。いや、もっとひどいことをしてきたのだと思います。
だから、この事実を決して忘れないため、作者はこの作品を残したともどこかで読みました。決して消し去らない歴史の事実。

「私たちは未来から学ぶことはできない。学ぶ材料は過去の歴史のなかにしかない。…自分に都合の良いように、粉飾した改変を加えた歴史からは、束の間のつじつま合わせしか生まれて来ない」
まさにそのとおりだと思います。

形はミステリーなので、これ以上は語ることができませんが、主人公を動かしているのはこの国に対する恨(ハン)。そして、三たび海峡を渡ることになったのです。
隣国との関係を考えさせられ、戦争の罪を考え、そして、今現在の日本を考える格好の作品です。
涙なくしては読めない傑作ですが、泣いてばかりはいられない事実がこの作品にはあります。 

この作品も心にジーンときました。家族の形はいろいろあれど、幸せとは形ではないんですよね。

「父さんは今日で父さんをやめようと思う」父さんはいった。母さんは家出中。兄、直は元天才。主人公佐和子を取り巻くこんなちょっと変わった家族と、ボーイフレンド大浦君との出会いからの中学から高校までを切なく描く。

形は連作短編なんだろうけど、結果、長編だろうと思う作品です。
冒頭でも書きました、父さんの言葉で始まる印象的なこの作品は、家族がある事件によって、離れ離れになるかならないかというような中、それぞれの思いが詰まって、かといって今の関係を決して壊そうとせず分かり合っていく、家族の物語です。

何といっても兄、直との関係がいいです。元、天才ですが今は農業。趣味はギター。彼と妹佐和子の関係が温かい。佐和子と母も。そして、父も。
あの出来事が無かったら、普通の楽しい温かな家族だった。それをわかりながら、暮らしている家族。その関係が読者に妙に安心感を与える。

しかし、それだけの話に納まらせないのが瀬尾さんの技量。あつかましい大浦君と佐和子の出会いの中で育まれる恋がどんどん大きくなっていき、いつしか主題になっていきます。
そして最終話は誰もが涙する話だと思います。そんな佐和子をそれぞれの家族がそれぞれの形で見守ります。父へ投げつけた一言が胸に染みます。しかし、誰も言い返さない。

何て胸に染みるんだろう。家族の幸せは形ではないんだよなー。と思わせてくれる作品です。あっ、そうそう直のガールフレンド(恋人?)小林ヨシコがいいんですよね。手作りシュークリームも泣かせるんです。
すべての方に読んでいただきたいそんな作品です。 カバーには「大きなものをなくしても、まだあった、大切なもの。」 まさにその通り、あなたにとって大切なものとは一体何ですか?そう問いかけて来ます。題名の通り、食卓がまた美味しそうなんです(母の料理も直の料理もいいんです)。
語ればネタバレになるし、語りたい衝動に突き動かされるそんな作品。とってもいいです。

評価:
有川 浩
アスキー・メディアワークス

とある小劇団「シアターフラッグ」――ファンも多い劇団だが、現在は解散の危機が迫っていた……お金がないのだ!! その負債額300万円! 劇団員も減り解散の危機に悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。兄に借金をして劇団は助かったが、司は巧たちに「二年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」という「シアターフラッグ」には厳しい条件を出す。
新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員が10名に。そこへ鉄血宰相・春川司を迎え入れ、巧は新たな「シアターフラッグ」を旗揚げるが……。果たして彼らの未来は――!?【メディアワークス文庫HPより】

まずまず、メディアワークス文庫って、どういうものと思い、若干、疑心暗鬼になって手に取った本です。おまけに有川浩さんの書き下ろし。結局買ってしまいました(笑)
恐るべき、有川浩効果。

実はこの作品、あとがきにもありますが、実際の劇団を題材(ネタ)に描かれた本です。ですので、結構、リアルな描写もあります。詳しいはずだ。
お話は、あらすじのとおり、いきなり負債300万円を抱えた劇団に、主宰巧の兄、後に鉄血宰相司に泣きつくというもの。2年で300万を返せ!ダメなら解散という厳しい条件を突き付けて、10人に減った劇団が再生していくというもの。減った理由は、負債もさることながら、プロの声優・羽田千歳が入団したことも影響があります。

徐々に、再生に向けてのプロジェクトが始まります。看板女優として、羽田千歳をメインにすること。お金のかからない、脚本、宣伝。そこには、劇団という職業の困難さや、裏方の努力がわかりました。こういう小説、好きです。

内容も徐々にはまりました。何より、鉄血宰相の司がいいですね。弟と劇団を愛するあまりの冷酷無比の条件。そして、ノウハウを尽くした宣伝。これこそプロですよね。徐々に劇団員が本気になっていくというものハマりましたね。
司が冷たく、言い放つ言葉が実にいいんですね。たとえば…、
「人間が何かをあきらめるのに必要な条件とは何か?全力でやって折れること」

当然、小説はそんなにうまいこと行かないのが定番。順風満帆に見えた公演も、思わぬアクシデントが。道具がない!
ここは羽田千歳の見せ場ですね。元々、劇団員とギクシャクしていたんですが、完全に溶け込んだシーンでした。
そして、最終日にまたもやアクシデント!

なるほどそうきたか。うまいこと行くわけないよな。でもなぜか爽快なんですよ。
胸キュンはありませんでしたが、この劇団シアターフラッグはどうなるのか、すごく気になります。
メディアワークス文庫やりますね。そして、この続編希望します。

 <リストラ請負人、村上真介ふたたび。主人公はあなたやわたしかもしれない>

リストラ請負人、村上真介シリーズの二作目です。前作「君たちに明日はない」では、主人公の村上真介のキャラが立ってましたけど、今回はやや抑えた感じかなー。
決して、爽快な話ばかりではありませんが、余韻が残る作品になっています。

村上真介はリストラ請負人。デパート、サラ金、生保などの会社から雇われ、リストラのために乗り込んでいく。時には、しかたなく、時には同情を感じながら、仕事をこなしていく。リストラに直面した人たちの人生を描く五つの話。

いやー、面白かった。しかし、素直に笑えないよなー。ここに出てくる人たちは、会社勤めのサラリーマンばかり。
そう、私と同じ境遇ではないか!一つ間違えば(間違わなくても)、明日にもリストラの身。そんなわが身を感じつつ、読み終えました。

例えば「二億円の女」を見よ。デパートの外商営業部で働く営業目標、二億円の女性。仕事も順調なのだが、リストラ応じようとする。果たして、なぜ?答えは「数字に追われるのが嫌だから」
分かるよなー、分かる。
最初に入ったデパガに異動になって、輝きを取戻すというお話。

「借金取りの王子」は金融会社に勤める男の話。イケメンで王子と呼ばれた男はなぜ、リストラに応じようとするのか?

「山里の娘」は有名旅館の従業員のお話。難なく仕事をこなしつつも、都会で働きたい欲望を抑えきれず、リストラに応じようとする。

この三作は特にいいですね。表題作「借金取りの王子」のラストの美佐子と宏明の会話がいいですね。涙なくして読めません。いいなー、この夫婦。幸せとは仕事の価値ではないんですね。それを教えてくれる作品です。

皆、収入には不自由していないが、会社の中で働き甲斐や生きがいを感じないまま、過ごしている。つまり、いつでも辞めたいと思っている人たちなのである。家族のために、身を粉にして働く人もいますが、そんな人たちとは一線を画している登場人物なのです。もちろん収入も考えなくてはいけませんが、それよりも人間としてのモラルであるとか、生きがいであるとかを模索している人なのです。
どんな会社や生活の中でもある、悩み。つまり、ここに自分がいます。常識って何?会社って何?そう考えさせられるんですね。そして、このお話に出てくる人たちが見つけた居場所とはどこなんでしょう。

何とリアルな現代を書いてくれるのだろう、垣根さん。
これは現代小説であるとともに、社会小説でもあるとわたしは、思います。このシリーズが書き続けられれば、日本経済の構図が分かるのではないかな。
リストラ請負人を極力抑えつつ、リストラを受ける側を描いたこの手腕に脱帽です。

読み応え在り。前作で垣根さんの意欲作と失礼な書き方をしたと思いますが、もういいません。垣根さんの代表作にしてしまいました。これは、いい作品です。

激しくて、物静かで哀しい、100パーセントの恋愛小説!
あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと――。あたらしい僕の大学生活はこうしてはじまった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同じ学部の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。
【講談社文庫HPより】

直子を訪ねたファームでは、同室のレイコとも親しくなって、居心地のいい日々となっていきます。レイコの過去の痛みも徐々に告白されていきます。レイコが壊れていく過程もすごかったですね。というより、加害者のピアノを教わっていた子の方がレイコより、ずっとずっと病んでいるんですよね。不通が普通でない矛盾。異常が異常とみなされない不条理。そんな、社会の悲しさがしみじみと胸に沁みこみます。
やがて、直子とも別れが来ますが、レイコに教わります。あらゆる物事を深刻に考えすぎない。距離を置くこと。そして、愛しい人を大事にすること。

うーん、不思議な物語ですね。ずっと、付きまとう生と死。直子はどんどん病んでいく中、緑との仲はどんどん深まっていく。療養所というか独特のファームで日常に戻るため、リハビリを続けていく、直子という人がありながら、この感覚は少しひきますが、これも現実なんですね。何せ、身近に寄り添っていてくれるんですもんね。

一番泣けるのは、緑の父を見舞いに行った時のワタナベの優しさですね。一緒にキウリを食べるシーンに私、泣きました。人の死を間近に感じた時、ワタナベは変わっていくんですね。
それからのワタナベは、今までの生きかたに決別したように、真面目になります。たとえ、暇な日曜日であろうとも、日曜日は、ねじを巻く日。それは、アイロンをかけて、ゆっくりと過ごし、また月曜からを生きるための安息日であると。

どんどんと深刻化する直子の病状と、緑との仲。やがて、直子の訃報が届きます。
緑との関係もありながら、直子への思いをふっきれないでいるワタナベのところに、レイコがやってきます。
直子の本当の思いと、これからの生き方を教わります。
「直子の痛みを感じ続けなさい。そして、何かを学びなさい。そして、緑さんと幸せになって、強くなりなさい」
と、レイコはいいます。
そうなんです、死んだ者は決して、生き返らない。だからこそ、その思いや痛みはずっとなくならないんですね。近ければちかいほど。でも死んだ方の生き方や、教えを思い出しながら、今を幸せに生きることこそが最高の供養になると。そのためには強くなることだと。わかるんですね、これ。

恋愛小説といえばそうであるような、しかし、それだけではなく、生と死を考え、再生を考えさせてくれる本ですね。だからこそ、ラストは生を考えさせたんだと思います。ワタナベにとってもレイコにとっても。
きっと、緑と幸せになっているんでしょうね(どっかで出たっけな)。だかkらこそ、冒頭にドイツの空港であれほど打ちのめされたんだとわたしは思います。

いろんな本が出てきます。村上春樹という作家を知るためにも、登場する作品を読んでみようかなとも思いました。とりあえず、フィッツジェラルドを読もうと思います。
この作品、また何度も読みそうな予感がします。

限りない喪失と再生を描く究極の恋愛小説!
暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた。限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。【講談社文庫HPより】

いまさらですが、村上春樹さんの良い読者でなかったことに気付きました。話題の「1Q84」も4月に3が刊行されるという。どこがどう良いのかわからないわたし。まずは、その大ベストセラー、「ノルウェイの森」を読んでみることに。たまたま、友人から借りたことも幸いしましたね(笑)

この世界観いうか空気感がやはり、読者をひきつける理由かな。物語は↑の通り、ドイツ、ハンブルグ空港から始まります。1969年、もうすぐ20歳の時の主人公ワタナべに何があったのか。俄然、興味を持つ内容ですね。そして、「ノルウエィの森」の意味とは。印象的な導入部。一体、何があったのか。

物語は一気に17年前のワタナべの大学時代に戻ります。奇妙な学生寮で出会う、奇妙な人たち。運河のポスターを貼り、毎日ラジオ体操をする、妙に清潔好きな「突撃隊」。先輩永沢さんとの女遊び。同じ専攻で出会う、小林緑。どれも印象的だが、運命の人、高校の友達キズキの彼女、直子と出会う。キズキは、ワタナベとビリヤードに興じた後、自殺した。そんな直子に魅かれていくが、直子自身も奇妙な行動をする。

要はワタナベの周りと自身の人生を丁寧に描いていきます。主人公に感情移入するかといえば、そうでもなく。どっちかというと、嫌いな部分は多いのですが…。つまり、若き日々を描いているんですね。特に永沢さんとのガールハントはどの時代も一緒で、もっとオープンになっている時代なので、ある意味、今の時代にも通じることだと感じました。
そんな賑やかな日々なんですが、直子から手紙が届く。療養所にいると。

この辺りから、展開は変わります。その療養所までの道のりの描写がきれいで、うまいな〜とも思いました。そして、そこで直子と一緒に住んでいるレイコが100円をとってまで、ギターで弾いていたのが「ノルウェイの森」だったんです。

さまざまな生活の中で、生の意味と、身近に感じた死。いきいきと生を謳歌しているワタナベや永沢。その意味は性描写なのかなー。
「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」
キズキの死から悟ったという、ワタナベの言葉はその後もその意味が問われていきます。
どこか疲れて、壊れ病んでいる人々。別な世界ではなく、現実なんですよね。そして、性に生を求める人々。この対象が何とも印象的。

レイコは言います。「いちばん大事なことはね、焦らないことよ」「…ひとつひとつゆっくりとほぐしていかなきゃならないのよ」
様々なことが、絡まりあい負担になっている生活に、この言葉が妙に印象的でした。不思議な小説ですが、なぜか引き込まれてしまいました。

 <地味な高校生活に当たる、一条のスポットライト>

決してスポットの当たることのない、地方の女子高校の生活。普通の生活の中に宿る、高校生の悩みや不安を切り取る連作短編集。

痛すぎて涙が出るんじゃなくて、なぜか胸がチクチク痛むという感じ。
どの作品も、とってもいいですねー。

といいつつ、最後の話「雪の降る町、春に散る花」は泣きました。
東京の大学に入学も決まり、付き合っていた彼と離れ離れになることの主人公の辛さ。そして、別れの時を切なき描きます。
自分も田舎を離れ、一人暮らしを始めたときの不安と寂しさがオーバーラップしてくるんですね。ただし、恋人はいませんでしたが。
大切な人だった人と離れ離れになる、寂しさが切々と伝わってきます。

唯一、この作品の中で系統が違っていたのが「金子商店の夏」。
司法試験に何回も落ちている和弥は祖父が、危ないという知らせに慌てて帰郷します。実家の学校の側の、小さな小さな金子商店。そこで懐かしい友だちと合って、幼い頃の記憶が蘇ってきます。
そして、まんざら「金子商店」も捨てたものでないと思い始めます。ラストで和弥が、ホースで水を撒くシーンがとってもいいんですね。
そこには、希望が溢れています。

その他は女子校生の話。
どれも粒揃いです。しかも微妙にリンクしています。
神田川デイズの手法ですね。

何気ない生活の中に、光を当てる豊島さんの手腕に、今さらながらすごさを感じますねー。
何回も言いますが、本当に痛い作品を書かれる作家さんです。
この痛さが、癖になるから不思議です。

評価:
朱川 湊人
実業之日本社

 <願いは必ず叶う。ただし、いっぺんだけなあ>

久々にノスタルジックホラーの名手、朱川さんの新作を(ちょっと遅れましたが)読みました。まさにノスタルジックホラーという感じの作品で、やはり、いいなあ。ホラー嫌いの人にもこんなホラーなら読めるのでは。懐かしい香りのする8つの話です。

『花まんま』の直木賞作家が描く命と友情と小さな奇跡の物語。田舎で出合った8つの不思議ストーリー。【BOOKデータベースより】

何といっても表題作「いっぺんさん」がいいですね。友人のしーちゃんといっぺんしか願いを叶えない神様を探しに山に向う。やっとたどり着いた先で願い事をする二人だが。そこから急展開します。二人は、どんな願い事をするのかというところが、この話のキモなんですが、主人公の少年の願い事が、予期せぬことで叶うことになります。そこが、感動するんですねー。短編なので、それもホラーとミステリの融合している作品なので、このぐらいしか書けないのが残念。

鳥がおみくじをする手伝いをする少年。ヤマガラのチュンスケとの交流を描く「小さなふしぎ」もいい。これ昔、どこかで見た鳥の芸だよなー。そして、時代の背景がとっても朱川さんらしいんです。『わくらば日記』にも同じ様な感想を持ったんですが、戦争が終わってからの時代をしっかり、背景にしています。そういう背景だからこそ、チュンスケと少年の交流が心に沁みるんですね。

ホラーだから当然怖いです。『コドモノクニ』の四つの話の怖さ。これ恐怖の四季ですよね。決して、子供達に聞かせられない。昔話をモチーフに朱川流のホラーです。
その他、不思議な村にたどり着き、快楽にふける青年の話「逆井水」。とっても不気味な話「蛇霊憑き」。一転、悲しい物語「八十八姫」など、まさに朱川ワールド全開です。

やっぱり、朱川ホラーは心に沁みる。「いっぺんさん」があまりに良くて、他の作品が少しかすむ気もしますが、様々に楽しめました。
あっ、裏表紙にもちゃんと仕掛けが。これがまた感動するんです。

ぜひぜひ、このノスタルジックホラーの秀作を読まれることをオススメします。
また『花まんま』を読みたくなりました。

評価:
柳 広司
角川グループパブリッシング

2008年週刊文春ミステリーベスト10「第3位」。このミステリーがすごい!2009年版「第2位」。本屋大賞ノミネート。吉川英治文学新人賞など、数々の賞に輝いた、著者のブレイク作品です。

時代は大日本帝国が列強国から植民地を解放するという名目で仕掛けた、太平洋戦争。結城中佐の訓練のもと設置されたスパイ養成学校D機関。徹底的に鍛えられ上げた訓練生たちは、世界の都市で諜報というもう一つの戦争を戦いぬいていく。

いやー、面白い。一気読み必至の作品ですね。何よりスパイ養成学校D機関を立ち上げた、魔王と呼ばれる結城中佐の存在感が全話に盛り込まれています。かって、スパイとして暗躍。しかし、敵国にスパイ容疑で拘束され、拷問により捻じ曲げられ手、足も負傷し杖をついて歩いているという結城。その彼が、陸軍の中では反対されつつ、スパイ養成を始めるという表題作が何といっても冒頭から引き込まれる理由でしょうね。

表題作は陸軍とD機関の仲介となった佐久間という男が主人公。D機関を嫌悪しているが、いつしか陸軍からも裏切られている事実を知ることに。そして、結城中佐の秘密も明かされていきます。もはや、誰も信じられない境地なんですね。ですが、結局陸軍も出し抜く結果になるんですが、これが爽快。以降陸軍も援助せざるをえなくなるんです。

第二話以降は、D機関を巣立ったスパイたちが国内で、イギリスで、上海で暗躍するする姿が書かれています。どの話も面白い。その展開が二転三転。まさに裏の裏は表。敵と思ったら味方。味方は敵になり、さまざまな駆け引きがドキドキしますね。結末がいい具合に落としていただけるので、これまた爽快なんです。大戦中の話なので、なかなか読めない気分だったのですが、早く読めば良かったですねー。

「殺人及び自死は最悪の選択肢」と叩きこむ結城。その教えが、スパイたちに伝わっていきます。見えない存在になることがスパイ。いやー、実際にこうした諜報活動ってあるんでしょうね。そんな厳しい世界を描きつつ、極上のエンターテインメントに仕上がっています。

これは第二作「ダブル・ジョーカー」も読まなくては。未読な方はぜひぜひ。面白いですよ。

<リストラ請負人、厳しい現実が他人事ではない>

リストラを行うことが自分の仕事、「リストラ請負人村上真介」。そんな彼が請け負って出会うのは怒る女、オモチャ屋の男、旧友、元コンパニオン、音楽プロデューサー。シビアな現代を描きつつ、決して暗くない5つの短編。

うーん、リストラ世代になった今、この短編集は自分にとっても、決して笑って読むことができませんでした。こういう人物の設定や、リストラの対象にされる人たちを見るまなざしも、優しい視点で書いて欲しいのですが…。主人公はリストラ請負人だけあって、淡々と自分の仕事をこなしていきます。一人ひとりを査定で評価してリストラに追い込めれば良いのですが、簡単にそうはいかないのがまた現実的。何ともいえない複雑な気持ちに。

ただ、この作者はこうしたテーマを決して暗いものではなく、展望を持った書き方をしているところがすごいなーと感心してしまいます。読ませる力量はさすがです。名作「ワイルド・ソウル」のノリはこの作品にも出ていています。ある意味この作者の特徴なのかなと思ってしまいます。

人物の設定も面白い。主人公の恋人芹沢陽子との出会いとその後。
彼といつもコンビを組んでいる川田陽子は美人なのだけれども、今風のボケの持ち主。そんな彼女とは一定の距離を置いて付き合っています。そしてリストラの対象になる人たちの悲哀。

この主人公、マザコンなのか、かなりの年上の女性を好みます。その辺をもう少し書いて欲しかったのと同時に、現実的な生活の臭いが感じられない主人公なのです。全て完璧。

しかし、このテーマでここまで読ませるのは作者の力量。今後も読む作家だと思いますね。ACT.3「旧友」の夫婦の会話には泣きました。この作品の中でも絶品です。

良くもあり、悪くもあり。しかし、力量は認め、期待する。そんな作家さんは、誰にもありますよね。わたしにとってはきっとそういう作家さんでしょう。
結論は全体的にはいいが、個人の思い(読む側の)に左右される本でしょう。このテーマに挑戦した作家の意欲作と取りたい。  


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