一定期間更新がないため広告を表示しています

  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

<負けてもいいじゃん!>

ハナは37歳、恋人タケダくんに「結婚してやる」という思いのまま、結婚する事に違和感を覚える。友人チサトと始めた古着屋は順調だったが、タケダくんとの結婚話を機に今までとこれからについて、惑うことになる。

年を重ねるごとに、周りはどんどん変わっていく。あの人もこの人も。そんな中で取り残されている自分。そんな事を思ったことはありませんか。わたしも例外ではなく、そんな思いが今もあります。
変わらないといけないんだけど、変われない。変わることが大人というのであれば、まだまだ子どもの自分。つまり、ハナは自分なんですよね。だから、この作品を読むとハナに感情移入してしまうんです。

片や、専業主婦のナエの思いや、友人チサトとの仕事をめぐってのぶつかり。そんな中で、なやんでいきます。
母の急死も影響します。かたくなに自分達のために、家族のために、平凡に生きてきた母は、何を望んでいたんだろう。母の生き方も、今のハナに突きささります。

角田さんは本当に上手い作家さんです。この絶妙な会話を見よ。実に登場人物が生き生きとしています。
そして、実に心理描写が上手い。この感覚こそリアルなんですよ。友人と始めた仕事も変えたくなくても、変わらないといけない。年齢が年齢だけに結婚も突きつけられる。そんな中で、ハナはもがきます。つまり、人生の勝ち組になるために。しかし、母や妹、チサト、タケダくんなどの生き方を通じ、変わることがすべてじゃないと思い始めます。

こんなに痛い小説は、久しぶりです。ハナの生き方を通じ、ささくれ立ち、こりに凝ったわたしたちの心を解きほぐしてくれます。
そう、負けてもいいではないかと。それがハナなんです。

角田さんの「対岸の彼女」は現代の女性のリアルを描いた傑作だと思います。そして、対岸のもうひとつの傑作が生まれました。
「その人はその人になっていくしかない」
ハナはそう感じ、歩き始めます。いい作品です。


<儚いけれど、揺るぎない家族という絆>

時間をこえて、遭遇する不思議な出来事。過去の思いが現在の自分に現われたとき、人はどんな思いになるのか。現実の中で失いたくないものと、「家族」という絆が主題の8つの短編集。

加納作品は久しぶりでした。「ななつのこ」や「魔法飛行」の初期の加納作品しか読んでいなかったので、どうかなと思って読んだのですが、良かったです。
こんなに切なくて、それでいて哀しみだけではなく、現在を前向きに生きる話、好きなんですね。読後も清々しいんですよ。

最初にある表題作の「モノレールねこ」は、家に現われたデブ猫。次第になつくようになるが、ある日、首輪があることを発見する。それから、首輪に手紙をつけてみる事に。そこから、見知らぬもう一人の飼い主との交流が始まるのだが。

「パズルの中の犬」はジグソーパズル好きの主婦が、ある日真っ白いパズルを買う事に。そのパズルから浮かび上がるものとは、幼いときに遭遇したあの光景。そこから、過去への回想が始まる。

「マイ・フーリッシュ・アンクル」は不幸な事故で家族を失った主人公。しかし、家族の中で残ったのは、毎日ごろごろしていた叔父さんのみ。二人の共同生活が始まるのだが、なぜ叔父さんがこの家に住み着くことになったのか。

特にお気に入りは「マイ・フーリッシュ・アンクル」です。不幸な事故で家族を失いますが、健気に頑張る主人公。グータラ叔父さんとの過去の思いを知ったとき、主人公共々、涙が出てくるんです。
まさにバカな叔父さん。しかし、そんな生き方を決して否定できないと誰もが思えてしまうんです。不器用なんだけど、そんな叔父さんが大好きなんです。ラストも爽快です。

すべての作品が粒揃い。日常の中で起こる不思議な出来事は、とっても切なく愛おしいものばかり。珠玉の短編集です。いつか読み返したい作品です。いいなあ、加納作品。
ぜひぜひ。

<僕の孤独が魚だとしたら>

「動物園のエンジン」…夜は動物園で眠り、朝はマンション建設予定地に向う不思議な男。
「サクリファイス」…山田という男を探すため、黒澤は小暮村に赴くのだが、そこは不思議な風習がある村だった。
「フィッシュストーリー」…乗り合わせた飛行機はハイジャックに巻き込まれてしまう。そこで現われる一人の男。
「ポテチ」…今村と大西は、尾崎というプロ野球選手の家に盗みに入る。そこで、鳴る電話。

まあ、何というかレビュー泣かせの作品です。新刊だけに、あまりネタバレになることは、なるべく控えたいのですが…。それにしても、すでにあちこちで書かれているとおり、過去の伊坂作品を読まれた方は、ニヤリとすることでしょう。あの作品のあの方がこんなところに出てくるなんてと。
本当に嬉しい一冊であることは間違いないと思います。
それに、あの話がと思われるところも随所にあります。
ということで、この作品集は、過去の伊坂作品を読んでいれば数倍楽しめると思います。
さて、一つずつの作品については、どれもが伊坂さんらしいものとなっています。これも読んでからのお楽しみですね。

わたしが好きなのは、表題作の「フィッシュストーリー」ですね。伊坂作品の全てが詰まっていると思います。現在と過去が時空を超えて結びついていく、お話なんですけど、これがいい。
時代に追いつけない、売れないミュージシャンの最後の叫び、
「この曲は誰かに届くのかなー」
これではっと気付かされます。

ある人とめぐり合ったとします。「過去のある日、同じ時間に同じ場所にいたんだー」とかってことなかったですか。そして、それは一つの出来事で引き寄せられた。そして、まためぐり合ったのも同じ理由だなんて。偶然の中の必然とでもいうのでしょうか。人と人との出会いや結びつきって、こういうものかもしれませんよねー。
本当にそう思ってしまうから不思議です。

随所に伊坂さんらしさを感じつつも、不満も少し、インパクトに欠けるといったら贅沢でしょうか。
十分に楽しめる一冊である事には違いありません。

<アンフェアなのは、誰か>

公園で会社員と高校生が殺された。現場には「アンフェアなのは、誰か」という栞が。出版社に届けられる「命を救いたければ、小説の続きを落札せよ」という要求。刑事、雪平は犯人を追っていく。

まずは、良いところから書きましょう。この作者のデビュー作であるこの作品は、スピード感が抜群にうまいと思います。数多くのテレビドラマを手掛けてきた作家さんならではでしょう。
次から次に起こる連続殺人事件。謎の提示。
事件を追う刑事たち。息も尽かせぬ展開といっていいでしょう。

捜査する刑事たちも、実に魅力的。特に主人公、雪平夏見が圧倒的な存在感を持っています。バツイチで娘には嫌われている。
抜群のプロポーションと明晰な頭脳を持ちながら私生活はグータラ。体力は人並みはずれている。「無駄に美人」なのです。
そんな雪平のマネージャーともいえる、若手刑事安藤。実にいいんですよ、このキャラたち。

と、ここまではいいところだったんですが、わたしが読んでどうかなと思ったところも書かねばいけませんね。スピード感があると書きましたが、裏を返せば、人間の描き方がどうも薄く感じざるを得ませんでした。雪平の過去や、課長との関係。犯人の描き方などなど。もう少し厚くしても良かったのでは。プロットがジェットコースター並みに面白いだけに実に惜しい気がします。

ドラマ化され、時々、見ていたのでそちらの印象が強かったのかもしれませんが…。ドラマは抜群に面白かった。期待して読んだのですが…。
それと「動機はいったい何」とも思えてしまいます。どうも納得性がない。犯人は「推理小説」を売りたかっただけなのでしょうか?

良いところ(期待するところも)の反面、どうも悪い面が気になって仕方がありませんでした。
とこういいつつ、このシリーズの二作目も読んでしまうんでしょうね。

<一箪の食、一瓢の飲、陋巷に在り>

孔子の一番の弟子でありながら、出世の野心なく、貧しい人々の住む陋巷に住み続けた顔回。師に迫る危機に持って生まれた能力を使い、敢然と立ち向かう。

いやー、ぶっ飛んだ作品でした。孔子は儒経を発展させた言わずと知れた大家。その弟子達は、孔子を守るための兵士達だったというのが、酒見さんの発想なんです。いやはや、すごい。

孔子の描写もすごい。2mを超える大男でありながら、なんと武術にも長けている。敵を一刀両断にしてしまうんですね。
そして、その弟子たちが、顔回を始めとしてすごい。弁舌に優れている子路、鳥の言葉が使え間諜の役目を果たした公冶長など。

一方、敵もすごい。敵は大国、斉の宰相、晏嬰。晏嬰とは偉大なる父、晏弱の死後、三年間喪に服し、儒の教えを全うしたとされる、名相。詳しくは、宮城谷昌光さんの「晏子」にも書かれていますので、そちらを。その晏嬰がなぜ、孔子を狙うのか。

諸国を流浪し、魯という小国の中で、取り上げられ、魯を支配している三桓の中で宰相として名を上げている、孔子に立ちはだかる政敵陽虎。
儒は呪術だったという発想もすごい。その呪術同士のサバイバル。

果たして、顔回は孔子を守れるのでしょうか。すごい敵が続々登場してきます。随所に書物に出ている孔子のエピソードや弟子たちの話が盛り込まれ、また春秋戦国時代の名相や、儒という思想に触れられています。

これは、歴史小説と伝奇小説の名作かもしれない。一巻を読み終えた感想です。
今、映画「墨攻」が公開されています。孔子と墨子は同じ時代背景で全く相反した思想であったということも初めて知りました。

日本にも影響している儒教も教えてくれます。
様々な知識も満載で面白い。そして、奇想天外。
いやー。こんなに面白い作品を読み逃していたなんて、後悔しきりの一冊です。

1

PR

Calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728   
<< February 2007 >>

blog list

最近読んだ本

よしの最近読んだ本

Archive

Mobile

qrcode

Selected Entry

Comment

  • ダブル・ジョーカー 柳 広司
    やっくん
  • 静かにしなさい、でないと 朝倉かすみ
    よし
  • 静かにしなさい、でないと 朝倉かすみ
    ゆう
  • 一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
  • 風の影〈上〉
    ゆこりん
  • 一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
    ゆう
  • 一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
    リベ
  • シャドウ 道尾秀介
    よし
  • モノレールねこ 加納朋子
    よし
  • フィッシュストーリー 伊坂幸太郎 
    よし

Link

Profile

Search

Other

Powered

無料ブログ作成サービス JUGEM