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評価:
久保寺 健彦
文藝春秋
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意外や意外、久保寺さんの今までの作品からは想像できない、リアリティ。
少しファンタジーがかかった作品が多かったのですが、この作品はそれがなかったですね。久保寺さんの新境地といったところでしょうか。
わたしは、買いです。面白かった。
この作品集は、「はじめて」がテーマ。
10代から60代までの初めての経験を、滑稽に少し感傷的に、描いているところがミソでしょうか。
そんな6編の短編集。内容は、
(20代)新米の先生が担任を任され…「先生一年生」
(30代)四歳の娘が一人で公園に出かけたいと言い出し、それを守る父親…「はじめてのおでかけ」
(40代)運動会で負傷した息子の代わりにリレーのアンカーを務めることになる…・「ラストラ40」
(50代)異動してきた佐久間さんがなぜか気になる。事情があるというが…「彼氏彼氏の事情」
(60代)はじめて、山歩きのサークルに参加。何と遭難!?…「ある日、森の中」
(10代)母親の入院の間、伯父と一緒に暮らすことに。そこで教わったもの…「さよならは一度だけ」
どれもが「はじめて」の体験です。「先生一年生」の空回り。「はじめてのおでかけ」の親バカぶりに笑ってしまいました。どれも、颯爽たる気持ちにはなれないけど、一生懸命さがすごくいいんですね。
一生懸命さでは「ラストラ40」。リレーのアンカーですものね。なぜ走るということは置いといて。ちゃんとライバルもいたりして。良かったです。
はじめてだけに、その一生懸命さが伝わってくるんですね。
最後の話の「はじめて」は小学生にはきついかな。でも誰もが一度は経験することなんですけどね。あまりいい気持ちにはなれなかったなー。
はじめてだけにね、最後は「開けゴマ」の心境なんですね。「ええい、くそ」なるようになるんです。
覚悟をきめて、一生懸命になる時、道が開けることもあるんですよね。
一生懸命にやればね。そんな気持ちにさせられた作品でした。
久保寺さん、やりますねー。