|
評価:
佐藤 多佳子
講談社
|
<速くなる。もっと、速くなる>
神谷新二と一之瀬連は、親友同士。揃って、春野台高校に入学する。そこで見た連の走りを追って、陸上部に入部する。4継(400mリレー)の虜となる。天才ランナー連に憧れ、ひたむきに走ることを追い求める新二。やがて、4継という競技にとりつかていく。
なんて、面白いんでしょうか。「バッテリー」「DIVE!!」はいずれもスポーツ小説の名作だと思っていますが、これまた、佐藤さんのこの作品が仲間入りしたといっても、いいでしょう。
サッカーというスポーツでは肝心なところで、ミスをしてしまう、新二を陸上にひき込むのは、一之瀬連。中学時代、陸上関係者にその名を認められたにもかかわらず、決して自分を出さず、マイペース、決して、交わろうとしない連。その走りを見て、陸上部に入ることを決意した新二。その最初のシーンもすごくいいです。
そして、陸上ではたいして、有名ではない高校を、徐々に引き上げていく、連と新二。そして、最強鷲谷高校の仙波と高梨。この関係は何となく「バッテリー」に似ている気もするが、そんなことは言っておられないほど、面白いんですね。
それぞれの家族と生活や、陸上を通じてできてくる友情や、先生の思いやり。
わたしはみっちゃんこと三輪先生が好きだなー。守屋先輩も実に優しく、風水好きの浦木などそれぞれのキャラが立っています。
連と新二の友情も泣かせます。強圧的な合宿から、脱走する連を探す新二たち。見つけて空を見上げると、無数の星たち。そして、新二は言うんです。
「逃げるな。一番みっともねえ」
こてこてのスポーツと友情小説にもかかわらず、なぜかこんなシーンに魅かれていくんです。佐藤さんは、実に上手いです。
そして、連のように走ることを追い求めることが、いつしか、連より速く走りたいと思うようになるんですよね。親友であり、ライバルの連。この二人の関係がまたいいんですね。どんどん、陸上の世界にのめりこむ新二。読むわたしたちも引き込まれていきます。
春野台高校陸上部の4継走者たちの今後はどうなるのでしょうか。そして、ライバル達との関係や恋や友情、家族。いいなー、本当に次が早く読みたくなる、一部から読者をのめり込ませる傑作スポーツ小説であることは、間違いありません。
とにかく熱く、ラストまで一直線に読み終えました。
私はほぼ発売日の直後に読み終え、1ヶ月ずっとじれったい思いをしながら待ち続けていました。
また感想とは全く関係がないのですが、第一部でよく出てきた陸上競技場は地元なのです。私は中学時代まで運動会などでよくそのトラックを走っていました。だから馴染みがあるトラックで走る彼らの姿をより親近感を持って読むことができました。