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評価:
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<僕の孤独が魚だとしたら>
「動物園のエンジン」…夜は動物園で眠り、朝はマンション建設予定地に向う不思議な男。
「サクリファイス」…山田という男を探すため、黒澤は小暮村に赴くのだが、そこは不思議な風習がある村だった。
「フィッシュストーリー」…乗り合わせた飛行機はハイジャックに巻き込まれてしまう。そこで現われる一人の男。
「ポテチ」…今村と大西は、尾崎というプロ野球選手の家に盗みに入る。そこで、鳴る電話。
まあ、何というかレビュー泣かせの作品です。新刊だけに、あまりネタバレになることは、なるべく控えたいのですが…。それにしても、すでにあちこちで書かれているとおり、過去の伊坂作品を読まれた方は、ニヤリとすることでしょう。あの作品のあの方がこんなところに出てくるなんてと。
本当に嬉しい一冊であることは間違いないと思います。
それに、あの話がと思われるところも随所にあります。
ということで、この作品集は、過去の伊坂作品を読んでいれば数倍楽しめると思います。
さて、一つずつの作品については、どれもが伊坂さんらしいものとなっています。これも読んでからのお楽しみですね。
わたしが好きなのは、表題作の「フィッシュストーリー」ですね。伊坂作品の全てが詰まっていると思います。現在と過去が時空を超えて結びついていく、お話なんですけど、これがいい。
時代に追いつけない、売れないミュージシャンの最後の叫び、
「この曲は誰かに届くのかなー」
これではっと気付かされます。
ある人とめぐり合ったとします。「過去のある日、同じ時間に同じ場所にいたんだー」とかってことなかったですか。そして、それは一つの出来事で引き寄せられた。そして、まためぐり合ったのも同じ理由だなんて。偶然の中の必然とでもいうのでしょうか。人と人との出会いや結びつきって、こういうものかもしれませんよねー。
本当にそう思ってしまうから不思議です。
随所に伊坂さんらしさを感じつつも、不満も少し、インパクトに欠けるといったら贅沢でしょうか。
十分に楽しめる一冊である事には違いありません。
伊坂さんのファンにはたまらない一冊でしたね。
私も、「フィッシュストーリー」が中でも一番好きでした。
あの無音の時間に叫ばれた愚痴が最高に心に残ります。