<Who’s the shadow?>
我茂凰介の母は癌でこの世を去り、父の洋一郎と二人で暮らすことに。父の親友であり、家族ぐるみの付き合いの水城家。幼馴染の少女、亜紀。亜紀の母もその直後、自殺。そして亜紀も交通事故。そして、父、洋一郎までも…。
2006年このミス第3位の作品です。
さすがにすごい。あっという間の一気読みの作品でした。
小学5年生の凰介を襲う次から次への不幸の連続。あることに遭遇すると目の前に現われる、光景の謎など、次第に物語に引き込まれていきます。
そして、随所に伏線を張り巡らせて、読者をあっといわせる事、間違いなしの作品です。
我茂家、水城家の誰もがそれぞれの苦しみや謎を抱え、その謎を幼い凰介が解いていきます。しかし、それは子供心にはあまりにもつらい結末です。はっきりいって、読むのもすごく辛い作品です。どうでも、道尾さんはホラーを書いてきた人なので、その傾向が強いのかも。しかし、ある意味、ホラー色、特に心理ホラーという部分がこの作品のミソ。
洋一郎も親友水城家も精神科医という仕事なんです。
しかも誰もが病んでいる。
「いったい狂っていないのは誰なんだ?」と思うんですね。
それぞれが、苦しい思いを抱えているんです。もちろん、亜紀も。凰介すらフラッシュバックするという兆候がある。
そして、事実にあ然とします。中盤で驚かされます。これでは凰介が可哀想過ぎるではないか。しかし、ラストですべての謎がわかった時、一筋の明かりが見えるんです。その結果が、決して良いとは思えませんが、凰介には幸せになってほしいと願うんです。
「シャドウ」とは精神の病気に現われる兆候だそうです。自分を他の誰かに投影してしまう事。つまり、他の誰かになってしまうんですね。その他にもそういった、精神の病気が出てきます。
「では本当に狂っているのは一体誰なのか?」
それは、この作品を読んでのお楽しみです。
あとひとつ、余談ですが、この作品に出てくる宮沢賢治「よだかの星」はわたしにとっても、思い入れのある作品だったので、すごく感情移入できました。読書感想文で入賞したんです。凰介の母もよだかのように、天上に輝く星となって、凰介の中に生き続けていくんですね。がんばれよ、凰介と応援したくなります。
超一級のミステリーです。
「一人の作家がブレイクする瞬間に立ち会う幸せ」と、どこかの書評家が言っていましたが、わたしもそういう幸せな気分でした。一人の作家のブレイクする作品に出会えたのですから。この作品は紛れもなく、道尾さんのブレイク作。次の作品が楽しみになってきました。
【東京創元社ミステリフロンティア/
】
「やられた!」と思いましたけど、
物語を楽しめて満足感も。
まさに、道尾さんのブレイク作だと
思います。
「フィッシュストーリー」にもTBさせていただきました。
気長にお待ちしていますね。