<心の凝りがほどけ、とけてゆく>
書評家の吉田伸子さんが、「本の雑誌」「週刊ブックレビュー」で取り上げられていたのがきっかけで、読んでみました。意外とは失礼ですが、良かったのです。
美和は、高校を辞め、祖父の銭湯でバイトをしている。高校をやめたのも、わずらわしい関係が嫌だったというだけ。そして、今もふわふわと生きている。そんな美和が、銭湯にくる常連客と接するうち、大切なものを見つけていく。
主人公美和のように、ニートってこういう気分なのかも知れない。何をやっても身が入らない。祖父から後継者のいない銭湯を継ぐかと聞かれても、継いだ所で先は見えているし、これといったものもない。
そんな美和がある人と出会っていく中から、やりたいものを見つけていく過程に、どきっとさせられ、打ち込んでいく姿に元気が出てくるんです。やりたいものとは、こんなに近くにあったのです。
美和を取り巻く人たちもいいですねー。漫画の原作を書いている、大和湯常連客の佐紀さん。彼女との交流もいいんですね。とっても自由に、緩やかに生きています。そんな佐紀さんが料理を振る舞い、酒を飲み交わすシーンがグッドなんです。本当に出汁巻きで冷酒が飲みたくなるんです。
もう一人は美和の弟、智也。これがいい味を出しているんです。
「大和湯でバイトするくらいなら、RPGで勇気と智恵をみがけ」
うーん、憎たらしいけど何か説得力のある大人びた中学生なんです。
回り道をしながらも、これからの人生を変えるものに気付かせていきます。それが見つかったとき、今までの美和が頑張っていくんです。高校にも認定試験を受けて終了します。努力し、夢に向かって突き進んでいくんです。
この作品に流れる、ふわふわ感。そして、もやもやした心の凝りが次第に「ほどけて、とける」作品に仕上がっていきます。そして最後は爽快感も。
この作家さんの優しい視点もとってもいいです。
この作品に触れれば、凝りがどんどんほどけていく、癒される作品であることは間違いありません。
【角川書店/
】