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評価:
村上 春樹
講談社
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激しくて、物静かで哀しい、100パーセントの恋愛小説!
あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと――。あたらしい僕の大学生活はこうしてはじまった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同じ学部の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。【講談社文庫HPより】
直子を訪ねたファームでは、同室のレイコとも親しくなって、居心地のいい日々となっていきます。レイコの過去の痛みも徐々に告白されていきます。レイコが壊れていく過程もすごかったですね。というより、加害者のピアノを教わっていた子の方がレイコより、ずっとずっと病んでいるんですよね。不通が普通でない矛盾。異常が異常とみなされない不条理。そんな、社会の悲しさがしみじみと胸に沁みこみます。
やがて、直子とも別れが来ますが、レイコに教わります。あらゆる物事を深刻に考えすぎない。距離を置くこと。そして、愛しい人を大事にすること。
うーん、不思議な物語ですね。ずっと、付きまとう生と死。直子はどんどん病んでいく中、緑との仲はどんどん深まっていく。療養所というか独特のファームで日常に戻るため、リハビリを続けていく、直子という人がありながら、この感覚は少しひきますが、これも現実なんですね。何せ、身近に寄り添っていてくれるんですもんね。
一番泣けるのは、緑の父を見舞いに行った時のワタナベの優しさですね。一緒にキウリを食べるシーンに私、泣きました。人の死を間近に感じた時、ワタナベは変わっていくんですね。
それからのワタナベは、今までの生きかたに決別したように、真面目になります。たとえ、暇な日曜日であろうとも、日曜日は、ねじを巻く日。それは、アイロンをかけて、ゆっくりと過ごし、また月曜からを生きるための安息日であると。
どんどんと深刻化する直子の病状と、緑との仲。やがて、直子の訃報が届きます。
緑との関係もありながら、直子への思いをふっきれないでいるワタナベのところに、レイコがやってきます。
直子の本当の思いと、これからの生き方を教わります。
「直子の痛みを感じ続けなさい。そして、何かを学びなさい。そして、緑さんと幸せになって、強くなりなさい」
と、レイコはいいます。
そうなんです、死んだ者は決して、生き返らない。だからこそ、その思いや痛みはずっとなくならないんですね。近ければちかいほど。でも死んだ方の生き方や、教えを思い出しながら、今を幸せに生きることこそが最高の供養になると。そのためには強くなることだと。わかるんですね、これ。
恋愛小説といえばそうであるような、しかし、それだけではなく、生と死を考え、再生を考えさせてくれる本ですね。だからこそ、ラストは生を考えさせたんだと思います。ワタナベにとってもレイコにとっても。
きっと、緑と幸せになっているんでしょうね(どっかで出たっけな)。だかkらこそ、冒頭にドイツの空港であれほど打ちのめされたんだとわたしは思います。
いろんな本が出てきます。村上春樹という作家を知るためにも、登場する作品を読んでみようかなとも思いました。とりあえず、フィッツジェラルドを読もうと思います。
この作品、また何度も読みそうな予感がします。