<Your love’s put me at the top of the world>
桜が散る季節にその犬と出会った。だから名前は「さくら」。長谷川家と愛犬さくらと過ごした日々がゆっくりとゆっくりと描かれていく。
最初、この作品は愛犬さくらを中心にした家族、動物小説と思っていました。それがまんまと外れてしまいました。
長谷川家の歴史が少しずつ少しずつ、描かれていきます。
格好良すぎて、聡明な兄。誰よりも可愛くて美しい妹。優しい父、美しい母。そんな長谷川家がだんだんと崩れていきます。
崩れていくまでが結構長いので、中だるみの感がありますが、辛抱して読み進めてください。
前半のミキに性教育を施す、お母さんの言葉が非常に感動します。
最後は「ミキ、生まれてきてくれて、有難う」と結ぶんですが、これが、いいんですよ。
兄の恋人矢嶋さんからの手紙が来なくなってしまいます。そこら辺りから物語は急転回に。本当にビックリしてしまいました。
兄の事故から崩壊していく家族。そしてすべてが分かってしまう主人公、薫。母はどんどん、太っていき、アルコール中毒、父は精神的に疲れ、家を出てしまう。
しかし、それも日常の中に横たわっているんです。それを見つめているのが、愛犬さくら。
父が帰ってくるところから、物語は始まります。それにあわせて、主人公が帰省します。
そして、ラストはどきどきも。
いい作品です。本当に上手い作家さんです。
真実が明らかになったとき、涙が…。どうしようもない、やるせない気持ちになります。
しかし、ちゃんとラストでこれからの長谷川家も示唆しており、悲しい物語に希望があるんですね。
本当に作家、西さんの上手さなんでしょうね。どんな出来事も日常の中にあるというメッセージ。だからこそ、淡々と丁寧に長谷川家の出来事を書いていったんですよね。
そして、キャラがいいんです。長谷川家はもとより、父の友だちのサキコさん、ミキの友だちの薫などなど。それぞれが物語にしっかり絡んでいます。
ぜひ、この家族小説を読んでください。読み終わった瞬間、ため息が出てしまうような作品であることは間違いありません。
【小学館/
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