<見上げれば、太陽が。太陽が何とかしてくれる>
話題の三羽さんのデビュー作を読みました。いいですねー、文章が面白い。デビュー作にしてうまいんです。これはコンプリートしなくてはいけない作家さんです。
大学生のイズミは、彼女のために肉体労働をすることに。引き抜かれたのは「マルショウ解体」。彼女とは別れてしまうが、肉体労働の魅力、それは仕事を終わって飲みビールがうまかったこと。おかしなマルショウ解体の面々とイズミの成長をコミカルに描く。
本当にこのマルショウ解体のなんと個性豊かな面々。マッチョで丸坊主、身長は185センチ、体重は90キロの巨漢カン。いい男なんだけど、女性にはなぜか奥手のクドウ。サラリーマンをリストラでやめて、肉体労働の世界に身を投じるハカセなどなど。
実ににぎにぎしく、けたたましく、汗くさい物語です。
本当に大笑いするんですが、ちゃんとしんみりさせ、最後は清々しい小説です。
そんな彼らが草野球チーム「マルショウスパイダース」にも入っている。ピッチャーはカン。これがまた可笑しい。連戦連敗チームのエースはカン。ノーコンピッチャーなんですね。
そしてカンの恋人ミヤコが襲われその復讐を誓い、殴り込みをかける、マルショウの面々。カンのために、連絡をとりあい、たどり着いたハラケンとの対決。これはジーンと来ます。うまいです。
そして、イズミのこうした日々も長くは続きません。引き抜かれるんです。
カンはいいます。「したたかにな行かなアカン」
つまり「人間関係や楽しいだの楽しくないだのというコトは、うまい飯を喰う、いい暮らしをする、という現実の前にはどうでもいいコトだ」とイズミは感じます。自分が今までこの「マルショウ解体」で働いていた事は実に甘いコトだった事を、痛感します。そしてやめる決意をします。
本当に可笑しく切なく、清々しい青春小説です。いろんな場面がちゃんと後の方でも効いています。いい奴らなんですよねー。
そして、今日もマルショウ解体の1日は始まるんです。
「ご安全に!」
何てうまい作家なんだろう。何度もいいます。こんなにうまい作家はそうそういない。
きっと直木賞候補に近いうちに選ばれるでしょう。そして直木賞も取るかもしれません。それほどのエンターティメント性豊かな作家です。古い言い方だと大衆小説の新星かな。
どんどん書いてもらいたい。そんな新作が、待ち遠しい作家さんです。
さあ、ナニワのガテン系、青春小説を堪能あれ。
太陽がイッパイです。
【文春文庫/
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